下今市から普通列車に乗って[SL大樹の走る鬼怒川へ1]

東武鉄道にSLが復活した.2017(平成29)年8月10日より下今市駅~鬼怒川温泉駅間において土休日を中心に1日3往復運転している.その名は「大樹」.
蒸気機関車はJR北海道から貸与しているC11形207号機,客車はJR四国から譲渡されたブルーの14系客車,信号設備をつけるために車掌車を連結し,最後尾に上り勾配の補助機関車として赤色のディーゼル機関車DE10をつけた編成となっている.
子供とともに楽しみにしていたSL乗車であったが,なんと当日はSL故障によりDE10による代行運転に! 紅葉の始まったSLの走る鬼怒川・日光への旅行記です.

(旅行年月:2017年11月)


東北道矢板ICから下今市へ

東北自動車道の矢板インターチェンジで降りて,新高徳に向かう県道を走って行くと鬼怒川への近道となる.途中に道の駅「塩谷」があったので休憩.2012(平成24)年6月にオープンした道の駅で,湧水のわき出る「湧水の里」だとか.

道の駅には日光・鬼怒川方面の観光パンフレットがたくさん置いてある.自治体や観光施設が立派な地図や情報誌を作成していて,割引券も手に入れられるし,情報収集にはとても重宝する施設である.

SL大樹 時刻表 (2018(平成30)年01月現在)

SLのチケット購入について.東武沿線に住んでいる方や働いている方は,事前のチケット購入(予約)がしやすいのであるが,遠くに住んでいる者にとっては,ちょっと不便なものとなっている.
購入方法は4種類
1:インターネット予約
2:電話予約
3:東武鉄道各駅での購入
4:主要旅行代理店での購入

インターネット予約と電話予約については,予約確定後1週間以内に東武鉄道各駅か東武トップツアーズの旅行代理店でチケットに引換える必要があり,東武鉄道が走っておらず,法人専用の東武トップツアーズの店舗しかない福島県内では,この方法では購入不可.
そうすると主要旅行代理店で予約チケットを購入する方法しかない.そこで,近くの旅行代理店でSL指定券を購入することにした.

乗車日の1ヶ月前から購入できるのであるが,1ヶ月前のお昼休みに大手旅行代理店のカウンターに行ったが,乗車希望としていたSL大樹3号(下今市13:00→13:36鬼怒川温泉)は既に満席となっていて,購入したのはSL大樹4号(鬼怒川温泉14:35→15:09下今市)であった.これも残席数10席程度とのことであったが,家族そろって希望する席をとることができたのでよかった.ちなみに,旅行代理店で私鉄の乗車券を手配すると,手数料として1,080円が追加でとられる.

下今市駅にて

車をどっちの駅の駐車場に停めるか.つまり,鬼怒川温泉駅と下今市駅のどちらに停めるかである.これは当日の到着時間などの状況によって決めようと思っていた.
鬼怒川温泉駅には,駅前の駐車場の他に,約70台が止められる駐車場(東武鉄道の関連会社運営)が駅の隣に設けられている.
また,下今市駅には,約30台と少ないが無料でとめられる日光市営駐車場がある.

まずは下今市駅の駐車場に行って,もし満車なら,鬼怒川温泉駅に向かって車を止めて,万一,鬼怒川温泉駅も満車だったら,鬼怒川温泉の今晩の宿泊施設に車を停めさせてもらうことにした.いずれ車の停めてある駅まで戻ってこなければならないため,最初に普通列車に乗ってSLに乗るか,SLに乗った後に普通列車で戻るかの違いになる.

下今市駅

転車台にはSL大樹が・・・

特急スペーシア

下今市駅の市営駐車場(栃木銀行今市支店の隣)に向かったら,ラッキーなことに1台だけ空きがあった.無料なので人気があるらしい.ということで,下今市駅から鬼怒川温泉駅までは普通列車で移動して,その後にSL大樹に乗って,鬼怒川温泉駅から下今市駅まで戻ってくることにした.
下今市駅は,SL運転にあわせて,レトロな駅舎に変更されていた.そして,下今市駅の改札口に到着したところで,1枚の張り紙が・・・・

「SLは車両故障のためディーゼル機関車による運転とさせていただきます」

これはとても衝撃的な張り紙である.子供も楽しみにしていたSLなのに.

「該当列車のSL座席指定券につきましては、東武線各駅(押上・寄居・越生駅および駅員無配置駅は除く)またはお買い求めいただきました旅行代理店において無手数料にて払戻しをいたします。なお、ディーゼル機関車による列車にご乗車を希望される場合は、ご乗車後に無手数料にて払戻しいたします。」

聞いたところ,ディーゼル機関車による運転の場合は,普通乗車券のみで乗車し,手数料なしでSL指定券分を払い戻ししてくれるという内容であった.(気持ち的には,ここまでの往復の費用と宿泊費も貰いたいところであるが,サービスの提供を受ければそこを払うのはいたしかたないか.)

子供に聞いてみたら,ディーゼル機関車でも乗る!という返事.東武鉄道でディーゼル機関車の客車に乗れること自体も珍しいことなので,ディーゼル列車のDL大樹に乗ることにした.

普通列車で鬼怒川温泉駅へ

下今市13:32発.
東武鬼怒川線を走る普通列車は,今ではあまり見かけなくなった4人がけのクロスシートの車両で旅情をそそる.11月初めの紅葉シーズン3連休初日とあってか,浅草方面から乗り継いできた乗客(外国人観光客も多い感じであった)が大勢乗っていた.下今市駅で半数程度下車したので,日光駅に向かうため乗り換えているのだろう.

そして,下今市駅から約20分,定刻どおり13:54に鬼怒川温泉駅に到着した.

ディーゼル機関車で代走[SL大樹の走る鬼怒川へ2]

鬼怒川温泉駅からDL大樹に乗車

鬼怒川温泉駅の自動改札を出て,駅舎の外に出ると,すぐそこに転車台があって,これから乗車するディーゼル機関車が回転していた.
SLは1日3往復しているので,1日3回,駅前広場の転車台でショーが行われている.今日は,ディーゼル機関車の代車であったが,それでも機関車に手を振る親子が沢山いた.

「イトだ!」
息子が叫んだ.

東日本大震災の直後,ガソリンの供給が不足し,新潟から磐越西線経由で郡山まで,タンクローリーで石油を運んでいた.そのときの実話が「はしれディーゼルきかんしゃデーデ(発行:童心社)」という絵本になっていて,活躍した機関車がDD51-852(デーデ),DD51-759(ゴク),そして目の前にいるDE10(イト)の3台の機関車だった.イトは会津若松から猪苗代にかけて続く急な上り坂を走れなくなったとき,後ろから助けにきてくれた頼もしい機関車なのであった.DE10という形式が同じであって,機関車自体が同じものではないのだが,イトと同じ機関車が見られたので息子も喜んでいたのである.

なるほど,SLが運行中止でも,DLを見られる違った楽しみ方があったことに気づかされた.

ホーム手前にある記念撮影のボード.

転車台からディーゼル機関車が戻ってきて連結する直前の様子.記念撮影をする大人,連結するところを見る子供たちでホームは賑わっている.

そして客車と連結.

こちらは正面.

入り口にはアテンダントが立っていて,案内をしている.客車は14系客車と呼ばれるもので,JR四国から譲渡されたものだという.僕にとっては若い頃に旅行したときに使った夜行急行「はまなす」のイメージである.

車内にて

昔ながらの昭和の雰囲気.今はデザインに凝った車両が多い中,とても懐かしい車内だった.

リクライニングシートも,体重を後ろにかけている間は背もたれが倒れているが,体を起こしてしまうと「バタン」と前に上がって戻ってしまう.
「あれ,壊れているの?」とみんな言っていた.これも懐かしい.

ポケットにはSL大樹の案内などが入っている.

しばらくするとアテンダントがやってきて,切符の拝見と乗車記念のプレゼントがある.
「本日はSLの故障により申し訳ございません」
改札の駅員からアテンダント,車内放送と,この言葉は10回以上聞いたと思う.

記念乗車証.
上下に傾けるとSLの車輪がグルグル回転するのみならず,後ろの風景や機関士も動くリアルな動画が楽しめる面白い仕掛けがしてあって,息子も興味津々.乗る列車によって絵柄が違うらしい.

続けてワゴンサービス.といってもお土産やグッズの販売がメイン.

「写真の撮影は無料ですのでいかがですか?」
ポラロイドカメラを持って声をかけられた.息子がすかさず,
「やりたーい」
あとから出来上がった写真を見せて,購入するならお金ちょうだい!,という商売だとは思ったが,きっぱり断って買わなければいいかと思い撮影を了承.
「はい大樹!ぱちり」
・ ・ ・
そして出来上がった写真を持ってきて
「いかがでしょうか.1枚1,100円です」
た,た,たか~い! しかし息子は,
「ほし~い~!」
結局買うはめに.....

車窓に見える自動車教習所の看板.「列車の運転は教えられません」 面白い!SLにすればもっと面白い!

あと少しで終点,下今市駅到着.アテンダントの方も山の紹介をしたり,SLの話題を話したりと,気さくにフレンドリーに対応をしていた.

途中,沿線の住民が手を振っていた.あるお宅では常連で,毎回手を振ってくれるとのことで,沿線を上げておもてなしをしていることを感じる.SLが故障しても手を振ってくれる姿を見ると,なんだかジーンとしてしまう.

ところで,このチラシは日光市観光協会と東武グループで作成しているもの.取組みは素晴らしいが,田植えをする風景は昭和前期といったイメージ.現在の鬼怒川にて感じられるイメージとはちょっとかけ離れているような気もしないではない.

SL展示館(下今市駅)

下今市駅に到着.跨線橋から見たSL機関庫(左奥).手前に転車台(転車台広場)がある.今日は「東武鉄道創立120周年記念SL感謝フェア」のイベントをやっており賑やかであった,が肝心のSLが故障であり....

SL展示館が併設されている.下今市駅の構内にあるので乗車券もしくは入場券がないと見ることができないが,特別な入館料はとられず観覧できる.
SL復活プロジェクトの軌跡や運転室のひみつ,蒸気機関車のしくみ,鉄道ジオラマなどがあり,休憩室も供えられている.

機関庫で修理中のSL大樹.復活はいつの日か・・・・

次の日SL復活,駅前でショー[SL大樹の走る鬼怒川へ3]

次の日,「東武鉄道SL復活運転プロジェクト」のフェイスブックを見てみると「通常どおり運転予定です。」とのこと.3連休の2日目,さすがに指定券は既に満席で乗ることはできないが,せめて勇壮な姿だけでも見てみたい!とのことで,急遽,鬼怒川温泉駅にやってくるSL大樹を見に行くことにした.鬼怒川温泉駅9:38着,折り返し11:08発.


鬼怒川温泉郷

鬼怒川温泉.鬼怒川に挟まれて大型のホテル・旅館が建ち並ぶ.見た目古そうな建物でも,中はリニューアルされてきれいな施設も多い.

駅にSLがやってくるまで時間があったので,鬼怒川温泉ロープウェイで丸山山頂へ.山頂にはおさるの山があって,餌付け体験ができた.

鬼怒川温泉ロープウエイ

丸山山頂からみた鬼怒川温泉の街並み.紅葉が始まったところ.

鬼怒川温泉駅にて

鬼怒川温泉駅ホームに入ると,下今市駅からやってきたSL大樹が既に到着していた.隣には,真っ赤な車体の会津鉄道の会津若松行きディーゼルカー.
鬼怒川温泉駅は,今となっては,どこの鉄道会社か分からなくなるくらい,色々な車両がやってくる場所になった.蒸気機関車,ディーゼル機関車,ディーゼル列車,特急スペーシア,JR特急きぬがわ,青い客車などなど...

これから転車台に向かうSL大樹.

前進して,バックして,ポイントを通過して,また前進して,転車台へ機関車は向かう.

今度は,JR東日本の特急きぬがわ号がやってきた.もともとは成田エクスプレスだった車両.

駅前でSLショー

鬼怒川温泉駅前の転車台広場には大勢の人が集まっている.

そして,SL大樹がやってきた.

独特の音をたてて,まるで生き物のように,真横を通過していく.SLは別格である.

転車台をぐるり180度,ゆっくりと回っていく.途中で止まって,色々な汽笛の鳴らし方を実演し,SLの魅力を伝えながらショーが行われる.

大勢の人で賑わう鬼怒川温泉駅の駅前広場.

向きを変えると,転車台を後にする.みんな手を振ってショーが終了した.

その後,SL大樹の故障によるDL代走は減ってきている.運行を始めた年(2017年)の11月までは故障が頻発していたのであるが,メンテナンスに慣れてきたからなのか,対策が功を奏してきているのか,フェイスブック上で故障の記事を見ることが少なくなっている.

日光いろは坂,そして中禅寺湖へ

さて,行程を当初予定の周遊観光に戻して,日光いろは坂へ.さすがの紅葉シーズンとあり大渋滞.通常20分のところ,1時間かかるとか.

紅葉は色づききれいであった.

トイレ休憩で立ち寄った明智平.ロープウェイが走っており,せっかくなので展望台駅へ.展望台からは,中禅寺湖と華厳の滝の眺望が素晴らしい.

そして,今回の旅の終着地,中禅寺湖に到着となりました.午後3時を回り,だんだんと日も沈む刻となってきたので,帰途につくことにした.

温かくて素朴な「幕の内弁当」[雑誌に掲載されたコラム]

雑誌名:「旅」
1995年11月号(第69巻第11号)
P.122
発行:JTB・日本交通公社
コーナー:思い出の駅弁「温かくて素朴な「幕の内弁当」」


温かくて素朴な「幕の内弁当」 =東武鉄道・下今市駅=

8年度歩前の中学三年の夏休み,両親の生家がある福島県の会津若松へ行った.その帰り,開通して間もない野岩線に乗ることにした.
会津若松から会津鉄道に乗って会津高原まで行く.そこから野岩鉄道の浅草行き快速電車に乗り換えて,東京へと向かった.快速電車は4人掛けのボックスシートで,前の座席には50歳位の白髪混じりの男性が座った.
会津高原を出発すると,電車は緑の山々に囲まれた県境を軽快に走った.そして,僕は前に座っていた男性と会話をするようになった.やはり東京出身だそうで,その日は会津高原まで日帰り旅行中とのことであった.流れる車窓を眺めながら様々な話を交わした.
電車は東武線に入り,鬼怒川温泉のホテル群をかすめて徐々に山を降りる.下今市駅に到着すると,東武日光からやってくる電車と連結作業を行うため,電車はしばらく停車した.車窓からホームを見ると,肩からベルトをかけて弁当を持った販売員が,「べんとーう,べんとーう」と大声を上げ,車内を見ながらゆっくり歩いていた.
「弁当を買ってくるから,ここで待ってて」
向かいに座っていた男性は,こういってホームに降りていった.
しばらくすると,弁当とお茶を2個ずつ買って戻ってきた.
「お腹がすいただろう.食べなよ」
こう言って,弁当とお茶を渡してくれた.弁当を開けてみた.すると,まだJRが国鉄だったころ,会津若松に行く途中でよく買った,懐かしい「幕の内弁当」であった.ご飯とおかずが箱の真ん中で区切られており,白米の中心には梅干しがひとつのっている.おかずは煮物とフライと漬物が入っている素朴な弁当であった.
正直言って,この弁当の味はあまり期待していはいなかった.昔買った幕の内弁当がおいしかったという記憶もない.ところが,ひと口食べてみてびっくり.弁当は温かく,ご飯は炊きたて.おかずの味付けも良かった.素朴な中にも真心が感じられた.こんなにおいしい弁当を食べたのは生まれて初めてだった.あっという間に全部平らげてしまった.
その後も,ときどき野岩線に乗って帰郷するが,下今市駅に到着すると,「べんとーう,べんとーう」という声が今でも聞こえてくる.この声を聞くたびに,おいしかった幕の内弁当のことを思い出す.そしてまたいつか食べてみようと,いつも思う.